【農業簿記とは?】一般の簿記との違い・特有の勘定科目・注意すべき点を徹底解説!

【農業簿記とは?】一般の簿記との違い・特有の勘定科目・注意すべき点を徹底解説!

農業簿記は通常の商業簿記と異なり、農業を営む人が使用する会計手法です。農家は農業簿記を理解しないと、正確な会計管理が困難です。この記事では以下の4項目に大別し、農業簿記について解説します。

  • 農業簿記の基本
  • 農業簿記の勘定科目
  • 記帳で注意すべき点と仕訳例
  • 農業簿記検定の概要とメリット

記事を読めば農業簿記の必要性や具体的な方法、取得のメリットがわかり、農業簿記を理解できます。正確な経営判断を行うために、ぜひ最後まで読んで農業簿記の知識を深めましょう。

農業簿記とは農業特有の会計手法

農業簿記とは農業特有の会計手法

農業簿記とは、農業でのみ使われる特有の会計手法です。

通常の簿記との違い

農業簿記と通常の簿記は、大きく分けて以下の4点が異なります。

  • 勘定科目
  • 棚卸し方法
  • 確定申告の仕方
  • 生物資源の取扱

最も重要な点は、勘定科目の違いです。農業簿記の勘定科目は農業特有の項目のみであり、商業簿記で計上される項目は含まれません。勘定科目が異なるのは、畜産業や作物の種類に応じた詳細な費用を反映する必要があるためです。

棚卸しに関しても、通常の事業とは大きく異なります。農業では農産物や原材料など、さまざまな種類の在庫が発生するので、種類ごとに分別し管理する必要があります。確定申告も独特の勘定科目や棚卸しに対応する、専用の書式で作成しなくてはいけません。

農産物を生み出す樹木や家畜などは「生物資源」であり、特殊な会計処理や減価償却の対象です。計上には専門的な知識が必要であり、農業簿記の取得なくして農家の運営はできません。農家を志す、あるいは親から農業を継承する人にとって、農業簿記の取得は必須です。

農業簿記が必要な理由

農家にとって農業簿記が必要な理由には以下の5つがあります。農業簿記を導入すれば、資金面・信用面ともに大きな改善や向上が可能です。

  • 法令遵守と税務申告のため
  • 補助金や助成金の申請のため
  • 経営改善や資金計画のため
  • 信頼性の向上のため
  • 労務管理やコスト管理の徹底のため

農業は政府から多くの補助金や助成金を受けられますが、申請に正確な会計データが必要になります。データ入力に農業簿記を導入することで、申請処理がスムーズに行えます。正確な会計データで、法令遵守と円滑な税務申告が可能です。

農業簿記は経営改善や資金計画にも役立ち、労務管理やコスト管理が効率化できます。収入と支出の正確な把握で経営状況を分析し、改善点を見つけることで、より効率的な経営が可能です。透明性のある会計により信用力も得られ、取引先や金融機関への信頼性の向上になります。

» 農業はどうやって始めるの?知識と準備について徹底解説

農業簿記で特有の勘定科目

農業簿記で特有の勘定科目

農業簿記における特有の勘定科目は、以下の10種類です。

  • 小作料・賃借料
  • 種苗費
  • 素畜費
  • 肥料費
  • 飼料費
  • 農具費
  • 農薬衛生費
  • 農業共済掛金
  • 土地改良費
  • 委託費用

小作料・賃借料

小作料・賃借料は、農地を賃借して農業を行なう際にかかる費用です。主に計上できるものとしては、以下のような項目があります。

  • 農地や建物、農機具の賃借料
  • 賃耕料
  • 農協などの共同施設利用料

農業経営者にとって農地や農機具は活動の基盤なので、上記の費用は重要です。小作料は通常、年次または月次で支払いが行われます。賃借料も同様に農業機械や施設を一時的に使用する際に発生し、賃借契約書の確認と保存が必要です。厳重に保管することで、経費の透明性と信頼性が証明できます。

種苗費

種苗費には作物を栽培する際に植える種や苗などの購入費用が該当します。高品質な種子や苗は作物の収穫量や品質が向上し、最終的な収益に影響を与えるため、とても重要です。種苗の価格は時期によって変動するので、しっかり当時の購入価格を確認しましょう。

注意点として、自身が栽培した作物から発生した時給分の種や苗は、収穫時の市場価格で記帳します。価額が高いときに収穫すると、経費を高く計上可能です。種苗費は種苗の選定やタイミング、保管方法を考慮することで、農業経営の成功に大きく貢献します。

素畜費

素畜費

素畜費は家畜に関連するさまざまな費用を指し、主に以下のような項目が含まれます。

  • 家畜の購入費
  • 家畜の輸送費
  • 家畜の飼料以外の飼育費
  • 家畜の種付料

素畜費には、家畜の健康を守るための獣医費や薬品費なども計上可能です。素畜費は少し複雑ですが、適切に管理することで家畜の健康状態を維持し、農場の生産性を高められます。

肥料費

肥料費に入るのは、作物の生育に必要な肥料の購入費用です。肥料費は主に以下の要因で変動します。

  • 使用量と使用頻度
  • 購入時期と購入先
  • 肥料の種類

要因に応じた管理でコストを削減でき、基本的に質の良い肥料を利用することで収穫量の向上が期待できます。単に高価な肥料を選ぶだけでなく、効率的な肥料の使用計画を立てることが重要です。環境に配慮した肥料選定は、持続的な経営に役立ちます。

飼料費

飼料費は家畜に与える飼料の購入費用を指し、農業の費用において多くの割合を占めています。飼料費として計上されるものは、主に以下のような費用です。

  • 家畜用の穀物
  • 牧草や干し草
  • 栄養補助食品
  • 養殖用の魚のエサ
  • 飼料の輸送費や保管費用
  • 飼料製造材料の費用
  • 飼料の品質検査費用
  • 飼料購入に伴う税金や手数料

飼料は酪農品の質や生産量を大きく左右するため、家畜に応じて適切な飼料を使うことは重要です。健康的な家畜を育成できれば、高い生産性を維持できます。飼料費の正確な把握と管理は、効率的な農場経営に直結します。

農具費

農具費

農具費に含まれるのは、農業に必要な道具や機械の購入費用です。農業を行う上で農具をそろえることは、生産性を高めるために必須です。手作業で行う仕事もありますが、機械を使えば大幅に時間と労力を節約でき、作物の生育状態を良好に保てます。

適切な農具の選定と維持管理は農作業の成功に直結するので、農具費の計画は重要です。農具は購入だけでなくレンタルも可能で、最短1日からレンタルできるサービスもあります。使用頻度が低い農具はレンタルで済ませれば、大幅に農具費を節約可能です。

農薬衛生費

農薬衛生費には、農薬の購入費用を計上できます。農薬は農作物の健全な生育のために不可欠で、適切に管理・使用すれば作物の品質や収穫量が向上します。農薬の用法・用量は「農薬取締法」で厳しく定められているので、注意して使用してください。

農薬衛生費には自前の農薬費だけでなく、共同で農薬を購入しヘリコプターで広範囲に散布する「共同防除」にも適用できます。共同防除の際に計上できるのは、自身の負担分のみなので注意しましょう。

農業共済掛金

農業共済掛金は、農業共済制度への参加に支払う費用です。共済制度は自然災害や病虫害などによる農作物や家畜の損失を補償する仕組みで、農家の生活を守る大事な制度です。農業共済制度には以下の5種類があり、農家は自身の事業に適した共済に入ることで、緊急時に補償が受けられます。

  • 農作物共済
  • 家畜共済
  • 果樹共済
  • 畑作物共済
  • 園芸施設共済

農業共済掛金は税務上、必要経費として計上できるため、節税の面でも役立ちます。国や地方自治体からの助成金が受けられる場合もあり、掛金の負担を軽減可能です。助成金を受けるための手続きや条件については、各農業共済組合の規定を確認してください。

土地改良費

土地改良費

土地改良費は農地を改良するための費用で、具体的には以下のようなものが該当します。

  • 排水・灌漑設備の導入費用
  • 整地費用
  • インフラ整備費用
  • 石灰資材の購入費用
  • 客土の購入費用

土地改良費は農地の土壌改善や排水・灌漑設備の導入のほか、宅地の整地費用も計上可能です。土地改良区への加入金や負担金もこの勘定科目に計上され、政府や自治体からの補助金や助成金にも適用される場合があります。設備や構造物の耐用年数によっては、減価償却の処理も必要です。

土地改良費は農業経営において重要な役割を果たし、耕作効率の向上や農作物の収量増加に直結します。長期的農地の価値向上を目的とするならば、土地改良費の適切な計上・管理が欠かせません。

委託費用

委託費用は、農作業や家畜の世話を外部業者へ委託した際の外注費です。具体的には単純な栽培や収穫費だけでなく、以下のような業務の外注も委託費用に含まれます。

  • 土地改良
  • 排水工事
  • 農薬散布
  • 農機具のメンテナンス
  • 農業経営コンサルティング

農業に関する内容で外部企業に委託したものは、おおむね委託費用として計上可能です。ただし農作物や酪農品の収入がない場合、費用処理ができない場合があります。状況によって処理は異なるので、計上する前に必ず確認してください。

農業簿記の記帳で注意すべき点と仕訳例

農業簿記の記帳で注意すべき点と仕訳例

農業簿記の記帳での注意点と仕訳例について、以下の4パターンから解説します。

  • JAへの委託で農産物を販売した場合
  • 外部から農作業を委託された場合
  • 補助金や助成金を受け取った場合
  • 自家用や贈答用に農産物を使った場合

JAへの委託で農産物を販売した場合

JAに農産物を委託して販売した場合、販売収益と手数料の計上が可能です。販売収益は売上高として計上し、販売手数料は売上高の中から相殺処理を行います。注意すべきは販売手数料には、JAから収益が振り込まれる際の振込手数料も含まれる点です。

JAへの委託で販売を行うと、JAからは「販売代金精算書」という書類が送られてくるので、必ず保管しておいてください。後日確認や監査があった際、正確な記録として役立ちます。経理処理の手順をしっかりと押さえることで、JAへの委託販売がスムーズに行えます。

外部から農作業を委託された場合

外部から農作業を委託されて得た収益は「作業受託収入」として計上可能です。委託元との認識の違いが生まれないためにも、受託前には以下4つの契約内容について、すり合わせをしっかり行ってください。事前に内容を決めておけば、スムーズな作業が可能です。

  • 作業内容と範囲
  • 作業期間とスケジュール
  • 必要な設備と資材
  • 支払い条件や報酬額

作業の進捗状況は定期的に委託元に報告し、終了後には最終報告書を提出することも重要です。納期や品質の管理には細心の注意を払うことで、委託元との信頼を深められます。万が一のため、保険や保証についても検討するとより安心して作業が進行可能です。

補助金や助成金を受け取った場合

補助金や助成金を受け取った場合

補助金や助成金は受取時点で収入として、「作付助成収入」などで計上します。ただし補助金・助成金が特定の使途に対して支給される場合、使用目的に応じた勘定科目に振り替えてください。例えば新しい農機具の購入に対しての補助金は「農具費」として記帳します。

税務上、補助金や助成金は課税対象となり、所得税や住民税がかかります。期間をまたいで受け取る補助金や助成金については収益の認識時期に注意し、適切に繰延処理を行いましょう。収支を正確に把握した帳簿を示せれば、経営の透明性を証明できます。

自家用や贈答用に農産物を使った場合

自家用や贈答用に農産物を使用する場合は、消費した段階で「家事消費」として、当時の市場価格で記帳します。代金の受取りや支払いがなくても、自家消費分や贈答分は事業収益として計算されるためです。ただし基本的に消費時の価額で記帳しますが、以下2つのどちらかの内容で記帳しても、法律的に問題ありません。

  • 収穫年分の収穫時の平均価額
  • 収穫年分の出荷時の平均価額

注意点として、自家用と贈答用では消費税の扱いが異なります。自家用で消費したものは消費税の課税対象になりますが、贈答用は不課税取引なので消費税の課税対象になりません。友人や親戚にあげた野菜などに消費税申告は不要なので、余計な税金を払わないように気をつけましょう。

農業簿記検定の概要とメリット

農業簿記検定の概要とメリット

最後に農業簿記検定の概要と取得するメリットについて、以下4項目でまとめたので参考にしてください。

  • 概要と受験資格
  • 各級の受験科目と合格基準
  • 取得するメリット
  • 効果的な勉強方法

概要と受験資格

農業簿記検定は農業経営に必要な会計知識を持っているか確認する試験です。農業簿記検定は一般社団法人日本農業技能検定協会によって実施されており、受験資格は不問で誰でも受験できます。1~3級の3種類が存在し、級が上がるとより専門的な知識を求められます。

試験は7月と11月の年2回実施され、併願も可能です。試験はいずれもマークシートを用いた多肢選択式で、主に計算問題が出されるため、電卓の持ち込みが許可されています。Webからの申込になるので、受験の際は必ず公式HPを確認してください。
»日本ビジネス技能検定協会(外部サイト)

各級の受験科目と合格基準

農業簿記検定の各級における受験科目と受験時間、合格基準などはそれぞれ以下の表のとおりです。

項目検定料試験時間問題数合格基準実施科目
1級5,280円120分50問合計点の70%財務会計
原価計算
管理会計
2級2,750円120分25問合計点の70%財務会計
原価計算
3級1,980円90分25問合計点の70%財務会計

いずれの級も、合格には合計点の70%以上の得点が必要です。ただし1級のみ問題数が50問となり3科目の解答が要求されるため、より多くの正答をしなくてはいけません。直近の第21回農業簿記検定1級の合格率は36%となっており、難関の資格であることがうかがえます。

取得するメリット

取得するメリット

農業簿記を取得することには、以下3点をはじめとした多くのメリットがあります。

  • 経費管理の効率化
  • 税務申告のスムーズ化
  • 法令遵守の確認の容易化

農業経営では多額の収入や経費の把握・管理が必要です。農業簿記の知識を活用することで、効率的な経営管理ができます。農業経営の全体的な質の向上や経営の透明性が増すことで、取引先や金融機関への信頼も得られます。

農業簿記の知識を持ち経営者としてのスキルを高めることで、持続的な経営の安定を図れ、地域農業への貢献も可能です。農業簿記は農業に携わる人のみならず、農業に興味がある人すべてに役立つ資格です。
» 農業経営の基礎知識とメリット、デメリットを解説!

効果的な勉強方法

農業簿記検定に1回で合格するには、効率的かつ計画的な勉強が不可欠です。勉強を効率化するには、以下の3ステップで学習計画を立ててください。

  1. 目標を設定する
  2. 時間管理を徹底する
  3. 復習を定期化する

最終目標はもちろん検定の合格ですが、短期目標として1科目当たりの学習完了時期を設定するのは有効です。1級では3科目の受験が必須なため、科目ごとに学習計画を立て、学習完了後も定期的な復習を織り込んでください。

1回の勉強に費やす時間管理も重要です。おすすめは1日の学習時間を明確に定め、1科目に集中して勉強を行うことです。複数科目を同時に勉強すると1科目当たりの知識定着が遅くなるので、あまりおすすめできません。集中力は長く続かないため、30分または1時間ごとに休憩を入れるのも有効です。

独学が難しいのであれば専門の資格セミナーを受講することで、セミナーが用意した学習スケジュールに沿って勉強が進められます。専門家への質問ができるセミナーも多いので、わからないことがあれば気軽に質問しましょう。自身に合った効率の良い勉強を行うのが最も重要です。

まとめ

まとめ

農業簿記は農業特有の会計手法であり商業簿記とは異なる点が多いです。正確な収支把握や税務対策に役立つため、農業に従事する方には必須の知識と言えます。農業簿記検定を取得することで、専門知識の習得やキャリアアップに大いに役立ちます。

農業簿記の取得には、効率的かつ計画的な勉強が必要です。各級ごとに科目数や問題数も異なるので、自身に合った学習計画を立ててください。農業簿記を取得できれば経営の効率化と透明性の向上が期待でき、事業がより良いものとなります。

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